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その恋を残して

第6章 ここにいるよ

「ハア――?」

 意味もわからず、げんこつを握っている田口を見たら――。

「照れながら言うな……気持ち悪いんだよ」

 自分も少しバツが悪いといった感じで、そんな風に言った。

「でも、効果はあったみたいだな。保健室イベント」

「はいはい……お陰様でね」

「キスでもしたか?」

「するかっ!」

「ま、その顔じゃ台無しだよな」

「ほっとけ……」

 そんな風に田口の奴にからかわれつつも、俺は割と穏やかな気分であった。

 蒼空と怜未そして俺の、三人の関係。困難はあっても、なんとか上手くやっていけるだろう。そこはかとなく、そう感じることができた。


 俺は、この日、色んな場面の蒼空を見ている。

 授業を真面目に受ける、凛とした後ろ姿。休み時間に木田たちと愉しげに話す時の笑顔。体育の授業で、額に汗を浮べて走る横顔――。

 蒼空の抱えているものは、俺の想像を超えて重いに違いないだろう。だが、彼女は辛そうな顔を見せることなく前向きに生きようとしていた。

 そしてそれは、この先も怜未と共にあり続けようとする、その決意の表れであるのかもしれない。

 だから俺は、蒼空を、そして怜未を支えていこう。今は本気で、そう思っていた。


 その日の放課後、俺は教室に一人、蒼空が戻るのを待っていた。

 蒼空は木崎先生に呼ばれて職員室にいる。編入してから日の浅い蒼空に対して、学校生活を支障なく送れているのか。そんな趣旨の面談のようだ。

 木崎先生もああ見えて、しっかり教師をやっているのかな。そんなこと、本人に向かっては絶対に言えないけれど……。

 『帆月蒼空』がクラスに来て二週間が過ぎようとしている。というか、まだたったの二週間か。そんな感覚の方が強い。

 蒼空と怜未――そのそれぞれとの時間なら、その半分になる。それでも、彼女たちが俺にもたらした変化は大きかった。

 それまでの俺が知らなかった想いを、いくつも教えてもらった気がする。

 タッタッタッ――廊下を誰かが駆けてくる音がして、視線を入口の方へ。

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