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その恋を残して

第2章 好きじゃないから……

「じゃあ、行くぞ」

「どこへ?」

「美術室だよ。寝ぼけてんのか?」

「あ、そっか……」

 確かに言われても仕方がない。上の空にも程がある。俺は自分の頬を軽く叩いた。

「さあ、行かなくちゃ」

 そして、なんとか気を引き締め立ち上る。


 俺たちは、美術室に移動した。三限目は美術の授業である。

 今日の課題は人物画。それぞれが二人組になって、互いの顔を描き合うというものだ。そんな訳で俺と田口は、自然の流れにより互いの顔を描くはめになっていた。

「チッ――あーあ。モデルが役不足過ぎて、創作意欲が湧いてこないんだけど」

「それは、こっちのセリフだ」

「なんだとお」

 田口は、そう言うと、急に顎を突き出してしゃくれてみせる。

「オイ、ふざけんな」

「おではまじべだど……」

 悪乗りした田口は両手で顔を押しつぶすと、更なる面白フェイスを完成させた。

「いいんだな。そのまま描くぞ」

「どうぞお」

 ふざけるのをやめる気配がない田口に、俺はムカついた。

「じゃあ、これでどうだ」

 剥きになった俺は、鼻の下を膨らませ、田口に負けぬ変顔となった。

「…………」

「…………」

 プッ――お互いの顔に耐えられず、俺たちは同時に吹き出すした、その時――

 ゴン、ゴン!

 俺と田口の頭に、強い衝撃が加えられていた。

「お前等、真面目にやれ!」

 それは、美術教師・迫田の鉄拳制裁であった。

「はい……」

「すいません……」

 頭を押さえつつ、謝罪をする俺たちだったが――。

 それを、疑わしく見ていた迫田先生は、後ろにいた二人に向かいこう言った。

「悪いんだが、コイツらと組みを変わってやってくれ。馬鹿二人だと進みやしねえんだ」

 それを聞いて、俺の心臓は、また脈打つ。それは――

「えー、描き始めてるのに」

 そう不平を洩らした木田が原因ではない。それは、もう一人の方――

「わかりました」

 そう答えて俺を見たのが、帆月蒼空だったから――。

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