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その恋を残して

第2章 好きじゃないから……

 恥ずかしいセリフを言ったことで、少し箍が外れたのかもしれない。

「帆月さん……はさ、どうして俺なんかに構ってくれるの?」

 俺は僅かに踏み込んだ質問をしていた。しかし、直後に後悔する。帆月にそんな自覚がない場合、俺が自意識過剰に思われかねない。だが――

「嬉しかったんです」

 帆月は、そう言うとイスを離れ窓際に立った。そして、そっと言葉を続ける。

「私、前の学校や実家で色々あったんです。私がいると、いつの間にか家族や友人に迷惑をかけてしまっていて。ずっと思ってました。私って変なのかなって……。親元を離れて、沢渡さんとこちらに来ましたが、やっぱり不安だったんです。だけど――」

「……?」

「『変じゃない』って、松名くんは言ってくれました。私は、それがとても嬉しかったんです」

 夕陽に照らされた帆月は、とても綺麗で、俺の描いた絵なんか足元にも及ばない。

 そんな帆月に見つめられると、俺の中で様々な感情が渦巻いた。

 好きになるなと言われたこと。今の帆月との会話のやりとり。自分に芽生え始めている気持ち。今日とは違う帆月のこと――。

 向けられた彼女の視線に答えるべく、俺はなにかを言わなければならないと焦った。身に覚えのない心のゆらめきに、とても戸惑っていた。

 だから、だろうか? この時、俺の口から無意識に発せられた言葉は、俺の想いとは裏腹に――。


「俺は帆月さんのこと、別になんとも……好きとかじゃ、ないから……」


 パラッ――。


 帆月の手から、彼女を描いた絵が舞う。

 そして、唖然と立ち竦む彼女の頬に、瞳より溢れた涙がスウと伝った。


 タタタッ――。


 その涙を拭いながら、帆月は駆け出す。


「…………」


 その姿を呆然と見送りながら、俺は自分が口にした言葉を反芻しハッとする。

 それは最悪のタイミングでなされた逆告白。少なくとも今は、絶対に口にしたくない言葉だった――。

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