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その恋を残して

第3章 私と、蒼空の秘密

 帆月の勢いに押されるように、俺は自分の中の曖昧な部分にある結論を出そうとしていた。

「あの時に、俺が言ったことは――」

 そして、俺がそう言いかけた時、

「言わないで!」

 帆月は、俺の言葉を遮る。

「今は、まだ言わなくていいの」

 帆月が何故、俺の言葉を止めたのか。僅かながら漠然と、理解できそうな気がする。

 それは、昨日の帆月じゃないから?

 だから『今は言わなくていい』ということ、なのか。
そう思った瞬間、俺は迷うことなく、こう口にしていた。

「今日の帆月さんは、昨日の帆月さんと――違うんだね」

「!」

「お願い。なにか事情があるなら、俺に話してくれない?」

 帆月の瞳が、真っ直ぐに俺を見据えた。

 俺も真剣に、その視線を見返す。

「誰にも、言わない?」

「絶対に、言わない」

 暫くの間、帆月は睨みつけるように俺を見つめる。その姿からは、強い緊張が滲んでいるように感じさせた。そして、両目を閉じ、息をゆっくり吐き出した後、噛み締めるように話した。


「わかった……教えてあげる。私と、蒼空の秘密」


    ※    ※


 俺は帆月に誘われるまま、沢渡さんの運転する車に乗っていた。

「お嬢さま――どちらに向かわれますか?」

「家でいいです。それと、沢渡さん。普段の呼び方で、大丈夫ですから」

「しかし――」

「かまいません」

 沢渡さんは、一瞬ルームミラー越しに、俺を見る。そして――

「かしこまりました。怜未(れみ)さま……」

「――!?」

 沢渡さんは、今の帆月のことをそう呼んでいた。

 『私と蒼空』『怜未』――それぞれに聞かされた、その響きが帆月の秘密の奥深さを物語っているように感じる。

 今、俺の横に座っているのは、つまり『帆月怜美』ということなのか?

 俺の想像を遥かに超えて『二人』の秘密。否、その事実が明かされようとしていた。

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