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その恋を残して

第3章 私と、蒼空の秘密

    ※    ※


 帆月の家。沢渡さんの衝撃的な話に、俺は混乱する。

「事故で死んだ……って? そんなっ、だって……」

 俺は引きつったような笑みを浮かべる。沢渡さんの性質の悪い冗談だ。最初はそう思うしかなかった。だって、さっきまで俺たちといたのが怜未だと言っていたじゃないか、と。

 そんな俺の想いを沢渡さんの表情が否定しているよう。沈痛な面持ちをして、細く開いた両目を微かに潤ませている。

 俺はもちろん、この沢渡さんという人のことを良くは知らないけど。それでも、冗談を言っているようには、とても思えなかった。

「は、話を……続けてください」

「承知いたしました……」

 沢渡さんは、ゆっくり立ち上がり、窓際まで歩く。

「理由(わけ)が、ございまして。私がお仕えする帆月家に、お二人が参られましたのは丁度、小学校に上がる歳の頃でした。詳しく申し上げることは控えますが、お二人は帆月家の奥様の実子ではございません、故に――」

 そして、館の庭を眺めながら、話を続けた。

「――そんな事情もありまして、帆月家におけるお二人を取り巻く環境は、決して温かいものではなかったと申し上げなければなりません。それでも、お二人には強い絆がございました。ですから、どんな困難をも、お二人でなら乗り越えてゆかれることができたのです。とても仲が良く、とても可愛らしい御姉妹でした」

 想いにふける沢渡さんは、とても優しい顔になっている。しかし、ほど無くその表情を曇らせることになった。

「しかしながら、三年前のこと。怜未さまは、通学途上の交差点で乗用車に跳ねられ重傷を負われたのです。事故後、すぐに病院に運ばれ手術が施されましたが、臓器へのダメージが大きく、怜美さまは意識不明の重体に陥ります。その時、眠ったままの怜未さまの傍らに、その手を握り続ける蒼空さまの姿がありました。蒼空さまは、怜未さまの側を片時も離れることなく、祈り続けておられました。必ず助かると、おそらくはそう信じながら……」

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