テキストサイズ

その恋を残して

第4章 二人で一人なのです

 ドアが開き、車を降りた彼女は――


「……おはよう、ございます」


 俺を見つけて、だけど顔を伏せたまま、おそるおそるそう言った。

 それを、聞いた瞬間に実感していた。彼女は、間違いなく帆月蒼空であるのだ、と。


 送ってきてくれた沢渡さんは、そのまま駐車場で待機。とりあえず俺は蒼空と並び、遊歩道を歩く。

 この遊歩道は、公園をグルリと一周するように設けられており、大体二十分くらいの散歩コースとなる。道の両側は木々に囲まれ、初夏の新緑が鮮やかであったが、その景色を愉しむ余裕もなく、共に俯いたまま俺たちはゆっくりと歩く。

 まだ互いに、挨拶以外の言葉を交わしてはいなかった。蒼空とは反対側の景色を眺めながら、自然と俺の緊張が高まってゆく。

 蒼空と会うのは、つまり放課後の美術室の――あの時以来ということになる。理屈ではそれをわかっていながら、それでも戸惑いを覚えてしまう。だが、いつまでもそうしてはいられなかった。

 それを事実と踏まえるのならば、俺は彼女のことを傷つけたまま、ということになるのだから。

「あの……帆月さん」

「――は、はい」

 歩き始めてから、俺たちは初めて顔を合わせる。蒼空の顔は、何処か不安そうだった。

「この前はゴメン。その……どうして、あんなことを言ったのか、自分でもよくわからないんだ。でも、後悔はしていて……だから、勝手かもしれないけど、あれは取り消してほしい。本当にゴメン……」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ