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その恋を残して

第4章 二人で一人なのです

 蒼空は黙ったまま、俺にしがみついて動かない。


「そ、蒼空……?」

 俺は蒼空の身体を、そっと離そうとするけど――

 キュッ―-と、首に回した腕に、力が込められていた。


 こ……これって、どういう状況?


 頭に疑問符を浮かべながら、俺は顔が一気に上気ゆくのを感じる。

 その耳元で、蒼空は呟いていた。


「私……松名くんのことが、好きです」


「…………!」


 電気が走り抜けたような、その衝撃とは裏腹に、それだけの言葉の頭で理解するのに、俺はどれだけの時間を必要としてしまったのだろう。

 否、きっと、言葉として理解したのではなく。彼女の気持ちが、俺の中に染み込んでくるような――そんな感覚が、確かにあった。

 それを実感できた時に、俺は頭で考えるより先に自然と、自分の中にあった想いを伝えた。


「俺も……蒼空が、好きだ」


 互いのことを理解するために、一緒に時間を過ごしたり会話を重ねたりして。人を好きになるのって、もっと大変なことなんだって――ずっと、そう思っていた。

 でも、実は――とてもシンプルなものだと、今は感じている。

 俺は蒼空と、互いを見つめ合った。

 その時、蒼空の瞳がゆらゆらと潤ませていたのは、たぶん、この前とは違う涙で。

 それを証明するように、蒼空は微笑を浮かべて言った。


「嬉しい……とっても」


 今の二人は、同じ気持ち。想いが通じ合ったことに、この胸が熱くなっていゆく。

 蒼空には難しい事情がある。でも、それは俺が受け止めよう。必ず受け止めてみせる。そう思っていた。不意に訪れた幸福に、俺は心を躍らせていた。


 故に、無防備だったのかもしれない。これから訪れる、本当の困難に対して……。

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