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その恋を残して

第5章 それは、おとぎ話だ

 次の日――火曜日の朝。今日も俺は、蒼空と待ち合わせていたコンビニにいる。

 しかし、昨日とは違うこと。今日、表に現れるのは怜未である。コンビニから一緒に登校するというのは俺と蒼空の間で交わされた約束であるのだから、ここでいつまで待とうとも怜未が現れるはずもなかった。

 では、何故ここに佇んでいるのか? その意味はゼロに等しい。だが万一、もし怜未がこの場所に現れた時に、俺がここに居ないという状況は避けたいと思った。

 なんとなくではあっても、それはあってはならないことだと感じた。だから、遅刻しない程度のギリギリの時間までは、この場所で待っていることにしたのだ。

 そして、そうしていると――

「なに、しているの?」

 俺の目の前から、その声は聴こえた。

 俺が顔を上げると、正面に怜未が立っていた。それは万が一のことであったはず。だけど、俺はあまり驚かずに彼女の顔を見つめた。

「おはよう。あれ、沢渡さんは?」

「松名くんの姿が見えたから、前の道で降ろしてもらったの。そんなことはいいから、なにをしているのか答えなさいよ」

 彼女たちの秘密を知った俺。その前では、蒼空を装うことなく本来の自分として接している。そして、今の怜未の口調は、一層厳しいものだった。

 たぶん彼女は怒っている。そう感じながらも――

「もしかしたら、怜未が来るかもって。あ、怜未って呼んで大丈夫? もちろん人前では、気をつけるけど」

 俺はわざと、そんな軽口を利いた。

「勝手にすれば。貴方、ふざけているの?」

「割と真面目なつもりだけど。そっちは、なんでそんなに怒っているの?」

「別に、怒ってなんか……」

 大声を出したことが気恥ずかしかったのだろう。怜未は、ふうと息を吐いてから、声のトーンを下げる。

「このコンビニで二人が待ち合わせていることは、蒼空から聞いてる。でも、今の私は怜未なの。待っていても、こんな処には来ないんだよ」

「でも、来てる」

「それは、たまたま見かけたからで……」

「ほっておくこともできたはず。でも、怜未は来てくれた」

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