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その恋を残して

第5章 それは、おとぎ話だ

「お待たせ」

 そう言って、オバちゃんが車に乗り込んできた。

「ボーっとして、どうかしたのかい?」

「あ、いえ……」

「じゃあ、戻ろうかね」

 オバちゃんが、車を発進する。僅か走ると、怜未の出てきた建物の前に差しかかった。俺がその方向を注視すると『hotuki-clinic』――建物の入り口には、そう表記されていた。

 『クリニック』……?

 初めに、俺はそれを気にした。もしかしたら、朝の件で怜未は怪我をしていたのだろうか。そんな不安からであったが、その可能性はやはり低いと思う。危険ではあったけど、どこかを打ち付けたようなことは無かったはずだ。

 そう、気にすべきはむしろ『hotuki』=『帆月』の部分である。

「帆月クリニック……?」

 俺は思わず、そう声に出した。

「なにか気になったのかい?」

 オバちゃんに訊かれ、俺は通り過ぎたその建物を振り返りながら、言う。

「いえ……こんな場所に、診療所なんてあったのかなって」

「ああ、つい最近のことだよ。東京から来た若い医者が、開業したって聞いているけどね」

「そうですか。最近……」

 そのクリニックを見送りながら、偶然ではないなにかを俺は感じていた。

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