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その恋を残して

第5章 それは、おとぎ話だ

「そ、そんな……」

「断っておくが、僕は違う。当時から家への反発があった僕は、できる限り二人の味方をしていたつもりだ。蒼空と怜未は本当に良い子だったし、本当の妹のように思えていたからね。しかし、先に言ったように僕は家を出ることになる。その後のことは――」

「誰も頼る人が、いなかった……と?」

「そうだろうな。いいや、古くから家に仕えていた沢渡さんは、当時から二人を気にかけていた。が――当然、家の者とは立場が違う。とても庇いきれはしなかっただろう。僕は家には未練はなかったが、その後の二人のことを考えると、後ろ髪を引かれる想いだった。だから、後に怜未の報せを受けた時に、僕は初めて家を出たことを後悔したんだ」

「…………」

 蒼空と怜未――幼き頃から二人は、多くの困難を共に乗り越えて来たのだろう。義兄である誠二さんの話を聞き、俺はそのことを実感している。

 だからこそ、蒼空と怜未の絆は、強く強固なものになった。その絆こそが、一つの身体に二人の意識が共存することを可能にしているのかもしれない。

「ところで――」

「はい?」

「沢渡さんは、今の蒼空の状況をどう説明したんだい?」

「それは――」

 俺は、沢渡さんに聞いた通りに説明をする。

 誠二さんは、黙ってそれを聞いた後、少し悩むような素振りをした。しかし、改めて俺の方を見ると、その口を開いた。

「それで、松名くん――だったかな。キミは、その話を信じる?」

 そう訊かれるた俺は、誠二さんの目を真っ直ぐに見て、こう答える。

「今は……信じています」

 すると――

「ハッハッハ!」

 誠二さんは、突如として高らかに笑った。

「なにか、可笑しかったですか?」

 俺が怪訝そうに見つめると――

「いいや――失礼」

 誠二さんは笑いを押さえてから、今度は厳しい顔を俺に向ける。


「そう、松名くんは信じたのか。でもね……それは、おとぎ話だ」


「おとぎ話……?」

 意味もわからずに、俺はその言葉を繰り返した。

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