その恋を残して
第5章 それは、おとぎ話だ
※ ※
沢渡さんから全て話を聞いていることを、俺は説明した。
すると医師は態度を変え、クリニックにほど近い喫茶店へと俺を連れて来ている。
帆月誠二(ほつき せいじ)――医師は自分の姓名を、最初にそう名乗った。そして、自分のことから順番に話を始めた。
「僕の生まれた家は、とあるグループ企業の創業者の家系でね。そうなると、その家の子供は跡継ぎ。親の地位を継承すべく、幼い頃から英才教育を叩き込まれる。自分の意思なんてあったもんじゃない。まさに、言いなりの人形というわけさ……」
「……」
「そんなことに嫌気が差してね。僕は親の反対を押し切り医大に進んだ。もっとも医者になりたかったわけじゃない。決められたレールを外れられるなら、なんでも良かった。まあ、親には勘当されたも同然だが、別に後悔はしていないよ。三年前の、あの時までは――」
「三年前……の?」
「ああ。君も、聞いているんだろ。怜未が事故に遭った時のことを」
「はい……」
「蒼空と怜未の生まれのことは、なにか聞いているのかい?」
「詳しくは知りません。事情があるとだけ……」
「二人は親父が妾に産ませた子でね。僕が高校生の時だった。二人が親父に連れられて、帆月家にやって来たのは……」
「二人の母親は?」
「その少し前に、亡くなっている」
「そう……ですか」
「僕には元々、兄貴と弟と妹が一人ずついる。つまり、四兄弟というわけ。そんな所に突然、現れた妾の子供。名だたる名家でのことだ。二人がどんな扱いを受けたのか、想像できるかな?」
「いじめられていた――ということですか?」
「端的に言えば、そうだ。義母に義兄に義姉……皆、二人を疎ましく思っていた。必然、幼い二人にも辛く当たることになった」
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