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その恋を残して

第5章 それは、おとぎ話だ

 それを耳にした俺は力を失ったように、腰をイスに落した。

「多重……人格?」

「僕は医者だからね。最初に蒼空の異変を聞いた時から、その可能性を考えていたんだ。もっとも精神科医を志したのは、その後のことになるが……」

「じゃあ……怜未……は?」

「蒼空が自分の中に宿した、もう一つの人格。否、蒼空が無意識の内に作りだした、もう一人の怜未と言うべきなのかな」

「――!?」


 百パーセント言い切るものではないとした上で、誠二さんは次のような説明した。

 解離性同一性障害とは――主に心的外傷(トラウマ)やストレスを要因として、本人から切り離された別人格が現れる状態をいう。

 多重人格障害と表したのは一昔前のこと。症状は患者により様々だが、別人格が現れている時の記憶は主人格にはなく、別人格はその記憶を自分のものとして成長を続ける。

 誠二さんは他にも詳しく話していたが、俺が理解するには難しい話が多かった。それでも必死に耳を傾けていると――必ずしも蒼空と怜未のケースに、当てはまらないと思える点もあるように思えた。

 俺は、それら疑問を誠二さんにぶつけてゆく。

「数年間に渡り正しく一日おきに人格が交代している、なんて。そんな症例は、他でも見られることなんですか?」

「少なくとも僕は聞いたことがない。だが、全ての事象が無意識に蒼空自身が望んだ結果だと考えれば、あり得ることかもしれない」

「だ、だけど――二人は眠る直前に会話をしてるって言ってたんです。それを裏付けるように、俺と蒼空の間で話したことが、怜未にも伝わっていることがあって。その逆もありました。そんなことも、全て説明がつきますか?」

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