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時計じかけのアンブレラ

第2章 ハワイ

それから数年が経って。
本当に物凄く思いがけないところで、青江さんに会った。
ハワイの高級ホテル。

沢山のパラソルが並んだ庭園に隣接したレストランで、見たことがある男の人が優雅に足を組んでテーブルについていた。

あ、日本人だ、かっこいい。
そう思って何気なく視線を止めたら、テーブルに傘の持ち手がかかっていて。
バルコニーの手すりの間から覗くスカイブルーで青江さんだと分かった。

「青江さん!?」

オイラよりも先に青江さんはこっちに気づいていたらしく、呼びかけるとニッコリと笑ってくれた。

「ウソ!!なんで居んの?
わあ、びっくりしたぁ~」

「智君、久しぶりだね」

顔の横でぴらぴらと手を振りながら言う。
懐かしい独特なイントネーション。

常夏の国でもスーツ姿だ。

「良かったら、こっちにおいで」

何年振りだろうか、全然変わってない。

優しく言われたけど、一瞬チュウチョする。
今はたまたま自由時間だけど、ここには仕事で来ただけだし。
ここ、凄く高いホテルなんだ。
オイラはレストランに入れるほどのお金を持ってない。

「大丈夫、この席はお金かからないから」

青江さんが言ってくれたから、手すりを回ってテーブルまで行った。

「すごい偶然だね!!
青江さんてもしかして、
テ、テレビの仕事の人?ですか?」

勧められるままに椅子に腰かけて、オイラはちょっと緊張しながら話した。

事務所に入ってからは、家の近くで会うようなこともなかったし、オイラはレッスンで忙しくしてたから。

その後は京都に行ってたし。

申し訳ないけど青江さんのことはすっかり忘れてしまっていた。

でも今この時期にここで会うってことは、もしかしたら青江さんは芸能関係の人なのかもしれない。
リポーターさんとか、雑誌の記者さんだったりしたら、オイラ達のデビューのために集まってくれたのだから失礼があってはいけない。

思わず言葉がぎこちなくなったオイラに、青江さんは出会った時から変わらない笑顔を見せた。

「テレビの仕事、は、やったことはあるけど
今日は智君たちの取材で来たわけじゃないよ
だから今までと同じように話して欲しいな」

そう言ってまた笑う。
なんだか大人の男の人なのに、すごくチャーミングなんだ。

オイラは安心すると同時に、この人の笑顔がとても素敵なことに気づいた。





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