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Happiness day

第19章 Do you…?

「あ…」

仕事に復帰して、初めての社食

天ぷらそばを頼んだはいいが
フォークで掬ったそばが、口に入る直前でスルリと落ちた

「ぷっ!」

前の席で食事を取っていた後輩のニノが、俺の失態を見て笑った

「ニノ。お前、別の席で食えよ」

俺の隣の席で食っていた智が、不貞腐れたようにニノに言う

「あぁ…すみません。
全てにおいて完璧な櫻井さんがそばを食べ損ねるなんて、可愛いなぁと思って、つい笑っちゃいました」

「俺、完璧じゃねぇし…」

「わかってますよ。世間的なイメージです
櫻井さん、不器用ですもんね?
左手の箸の持ち方教えましょうか?」

左手で器用に芋の煮物を摘むニノ

そりゃそうか、コイツは元々左利きだ
しかも、右手で文字を書くことも出来る

智とはタイプが違うけど、器用な人間

「教えてもらった所ですぐに使える気しねぇ…
使えるようになる頃には、怪我が治ってるわ」

「ですよねぇ。だったらそこら辺の女子社員に頼んだ方が断然早い」

「女子社員に?女性の方が教えるのが上手いってことか?」

「違いますよ〜。女子たちに頼めば、『櫻井さん。はい、あーん』って、食べさせてもらえるって事です」

ニヤッと笑うニノ

やっぱりコイツ、人をおちょくってやがる

「そんなことしなくても、自分で食うわ」

今度は慎重にそばを掬ったフォークを口に運ぶ

無事に口にたどり着いたそばをずるっと啜った

「はぁ…やっぱり、そばは箸で食いてぇなぁ…」

味は変わらないんだろうけど、なんか違う

昨日と一昨日は、智がスプーンとフォークで食べる食事を用意してくれたから気付かなかった

「食べさせてやろうか?」

智の場合はニノと違って本気の提案だろうけど、ここじゃなぁ…

「ありがと、気持ちだけもらっとく」

「なんだ、残念…」

ん?残念?

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