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Happiness day

第26章 太陽の世界

「相葉…」

声の主は、森田さんと同じ、大学生のアルバイト…相葉さん

「なにしてるんです?松本くんとふたりで」

「お前こそ何しに戻って来たんだよ…
さっき帰っただろ?」

ふたりでいる所を見られたのが気不味いのか、森田さんのトーンがダウンした

「俺は忘れ物を取りにちょっと」

ニコッと人の良さそうな笑顔を浮かべ答える相葉さん

森田さんの笑顔とは大違いだ

笑顔ひとつで、人に与える印象がこうも違うとは…

相葉さんは、従業員たちの間でも評判がいい

仕事ぶりは真面目だし、お客さまへの対応は優しくて、丁寧
なんと言っても笑顔が最高だ、と…

俺もそれは、ここに入ってすぐに身を持って持って知った

フロアー担当者が食器を下げに来た時、洗い場担当の俺は顔を合わせる

大抵の人は忙しさもあって『よろしく』と、一言だけ言って置いていく

まぁ、森田さんなんかは、その一言もないが…

でも相葉さんは『よろしくお願いします』と丁寧な言葉をくれ
オマケに、さっきと同じような笑顔まで付けてくれる

俺も、忙しさで気持ちに余裕が無くなったりするんだけど
相葉さんのあの笑顔を見ると、一呼吸つけると言うか、落ち着きを取り戻せるんだ

だから俺も相葉さんに声を掛けられると、笑顔で応じる

人間は鏡…とは、良く言ったもんだ

相葉さん相手だと、お客さまだけじゃなく、従業員も笑顔になる

「で?ふたりは何をしてたんですか?」

相葉さんがもう一度、今度は俺の方を見て聞いてきた

「あ…えっと…」

「なんもしてねぇよ…ちょっと世間話してただけ…なっ?松本くん」

さすがに人に知られるのは恥ずかしいのか
俺が話す前に割って入って来て、誤魔化そうとする

これで解放されるなら、合わせてやるか…

「はい。話し始めたら、ちょっと長くなっちゃっいましたけど、もう帰る所だったんですよね?森田さん」

「お、おうっ…んじゃ、俺帰るわ…またな、相葉、松本くん」

「「お疲れさまでした」」

足早に立ち去る森田さんを相葉さんは笑顔で見送り
森田さんの背中が小さくなった所で、俺に振り返る

「俺たちも帰ろっか」

「え?忘れ物は?」

「ん?ないよ」

そう言うと、またニコッと笑顔を見せた

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