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君の光になる。

第10章 ラブホテル

 ガラガラと、あちらこちらでシャッターがけたたましく引き降ろされている。薄い鉄板が弾ける音が響いた。
 
「……もう……閉まってしまうんですね。まだ早い時間なのに……」
 
 夕子が呟く。
 
「ほとんど、お客さんがいなくて閑散としているので……」
 
 暖かい風が湿気を含むのが分かる。風がゴウと音を立て商店街を抜ける。安倍から引き離されそうで、安倍の腕を固く組んだ。
 
「あ、雨、降りますよ。安倍さん……」
 
 土やホコリを洗い流す独特な匂いが湿気を含んだ空気を感じた。道路を洗い流すようなサアっという音の後パリパリと雨粒が跳ねる音が聞こえた。
 
「走れますか?」
 
 夕子は小さくうなづいた。夕子は小走りで走った。安倍に引かれて。
 雨音が小さくなった。
 
 
 安倍の足が止まった。
 
 コツコツとヒールがある靴が小走りで夕子の前を通る音がした。跳ねるようなペタンペタンという固い靴の音があとから駆け抜けた。それを追うように……。ピシャピシャと夕子の足元を濡らす。
 
 夕子の目の奥にぼんやりと光を感じた。
 
「ああ……助かりました。ここは……安倍さん……?」
 
「…………ここは……ホテル……。ラブホテルの前です」
 
 ――ラブホテル……。
 
 夕子にもラブホテルの意味は分かる。夕子は小さく息を吐いた。
 
「……入りましょう。ホテルの中……」と、夕子が呟く。
 
「えっ……大丈夫ですか?」
 
 と、安倍の息のような声が夕子に訊ねた。
 
 夕子は安倍の腕を強く引き寄せた。その手の甲に安倍の手のひらが重なる。
 
 ――安倍さんの手、温かい……。安心する。
 
 安倍が歩を進める。
 
 モータが唸る音が聞こえる。自動ドアだ。溢れ出した温くも冷たくもない人工の空気が夕子の髪を揺らす。どこかに革製品があるのか、新品の革靴のような匂いがしている。ホテルだというのに誰の声も聞こえなかった。

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