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その瞳にうつりたくて…

第2章 音色

「あ、あの…、ごめんなさいっ!」
「え…?」

俺の予想に反して、その女性は俺に頭を下げて謝って来た。

え?何で俺謝られてんだ?
勝手に入って来たのは俺なのに。
ピアノの邪魔をしたのに。

「ここ、この教室使うんですよね?か、勝手に弾いちゃってごめんなさいっ!」
「え、いや、俺は…」

な、何だこの子?
ここの指導員じゃないのか?
指導員なら別にピアノを弾いてたところで何の問題もないんだが。
指導員じゃなくてここの生徒か?

「すいません、すぐに出ていきますから!」

焦るように近くにあった自分の鞄を手にして、教室を出ていこうとしてる。
つーか、俺は別にここの教室を使う予定はないんだが…。

「いや、別にこの教室は使わないから…」

と、こちらが説明しようとしても、彼女は焦りながら出ていこうとしてる。
何か、悪いことをしてしまった。

「本当にすいません…」

あたふたする彼女。
その彼女の反応を見て思った。

あれ?もしかして、俺に気づいてない?
今、彼女が弾いていた戦隊物の主役だった俺に気づいてない?

そうだとしても仕方ない。
あの頃に比べたら俺もだいぶ老け込んだ。
あの頃のような爽やかさはもうない。
気づかれなくても無理はない。
仮にもし、俺に気づいても、他の生徒みたいにバカにされるのがオチだな。
気づかれない方がマシだ。

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