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その瞳にうつりたくて…

第3章 再会

そんな事を考え出すとキリがない。
それはわかってる。
いつもいつも考えないようにしているが、酒が入ると心の本音は隠せない。
トボトボと歩く足取りが重く感じる。

俺は今、この東京で「成功」したんじゃない。
「それなり」に生きてるだけに過ぎない。
生徒にバカにされながら、毎日を粛々とこなしてるだけだ。









そして、次の日…。

「それじゃ、今日はアドリブだけの芝居をやってもらう。各自で台詞を考えて即興で演じること」

次の日、今日も何も変わらない毎日が始まる。
始業ベルと共にレッスンが始まり、生徒達を指導しながらその様子を眺めるといういつもの流れ。

「それじゃ、まずは相川から…」
「はーい」


俺の若い頃とは違って、現代の若い世代を象徴するかのような演技が目立つ。
どこか力の抜けた緩い口調と立ち振舞い。
そんな生徒達の芝居を見てると指導すべきところもあるが俺が学ばせられることも多い。

生徒の演技を見ながら、俺は昨日の女性の事を考えていた。

平井先生の言葉を鵜呑みにするわけじゃないが、あの女性は本当に幽霊だったのか?
いや、そんなはずはない。
あんなリアルな幽霊がいるわけねぇ。
でも、あの女性は何であんな曲をピアノで弾いていたんだ?
いくら考えても謎だらけだ。

それに、彼女は俺に気づいてなかった。
目が悪いとか何とか言ってたけど。



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