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その瞳にうつりたくて…

第3章 再会

彼女の目が悪かったから、俺の正体に気づかれなくて済んだが
でももし、俺が正体を明かしたら彼女はどんな顔をするんだろう。

驚くのか?それとも、がっかりするのか?
喜んでくれるのか?

「あの、先生?」

いや、こんな老け込んだ俺を見て喜ぶはずがないな。
でも、彼女の目はほぼ見えてないんだから、俺が老け込んでても見えてないんだし、問題はないだろう。

「先生っ?」

でも、もう会うことはないかも知れない。
昨日だってたまたまあの音楽室にいただけかも知れない。
どこの誰かも聞いていない。
彼女に会うには、またいくつかの偶然が重ならないと…。

「先生っ!!」
「え?あ…っ」

生徒の声でハッと我に返った。
どうやら、今演技を見せてくれた生徒が俺に話しかけてるようだった。

やべ、考え事に夢中でちゃんと見てなかったし生徒の声すら聞こえてなかった…。
今風のお洒落な生徒が俺を見上げながら不安そうな表情を見せている。

「あぁ、どうした…?」
「いや、僕の今の演技どうでしたか?」
「あ、あぁ…、よ、よかったよ…」

と、言っても全然見てなかった。
この生徒は何も言わない俺を見て変に思って声をかけて来たのだ。
自分の演技に対して俺が何も言わないから不安になったのだろう。
俺、指導員として失格だ…。

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