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その瞳にうつりたくて…

第3章 再会

幽霊でも幻でもいいから、もう1度あの子のピアノが聞きたい。
俺の疲れやストレス、この世の喧騒の全てを忘れさせてくれるあの優しい旋律。
嫌なこと全部を忘れさせてくれるあのメロディー。





―――――ガラッ。


重く、古くなったドアを開けると、そこには昨日と同じ大きな漆黒のグランドピアノ。

そして




「―――誰?」






そして、そのピアノの椅子に腰をかけてるのは








いた。
会えた。









そこにいたのは、昨日と同じ、あの子がいた。
ピアノに手を置いて、今にも昨日の旋律が聞こえて来そうな気がした。








「…こ、こんにちわ」
「こんにち、わ…」

俺の挨拶に戸惑いながらも応えてくれた彼女。
彼女は目が悪いらしいから、俺の顔など認識していない。

「あの、昨日、ここで会ったんだけど…」

彼女は覚えているか?
昨日の事だけど、もう忘れてしまってるんじゃないだろうか。

「あ、昨日のお兄さん?」
「う、うん、そう」

昨日ここで会った人物だとわかりホッとしたのか、彼女の顔が少し綻んだ。
知ってる人物だから少しは安心出来たのだろう。

「あ、もしかして、今日もここ使いますか?」
「あ、いや…っ、使わないよ」

今日もというか、昨日も使ってすらいない。
ここはもうすぐ改装されてしまうんだから。


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