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その瞳にうつりたくて…

第3章 再会

この子はこの教室がもうすぐ改装されることを知らないのか?
もう誰もこの教室を使ってないことを知らないのか?
じゃあ、やっぱりこの子はこの学校の生徒じゃないのだろうか?

「あのさ…」

俺は彼女に話しかけながらゆっくりと近づいて行った。
俺の足音や気配が近づくのを感じて彼女の視線がキョロキョロと動き出す。
しかし、その視線は俺に向けられたのかと思うとすぐに反らされてしまう。
俺の姿は彼女の目には映ってないのだろう。

「な、何でしょうか…?」

彼女は怯えながら俺の問いかけに答えてくれる。
彼女のすぐそばまで来た俺は彼女の顔を見つめたが、彼女は俺の方を見ない。
それは怯えてるのか見えてないのか…。

「あの、昨日の…」
「昨日?」

昨日ここで弾いていた戦隊物の主題歌。
どうしてあんな昔の戦隊物の曲を弾いていたのだろうか。
見たところ、この子はずいぶんと若い。
俺のことなど知らなくても無理はない。
でも、知りたかった。
俺の胸に沸き上がった全ての謎の答えを聞きたかった。

「き、昨日のピアノ、凄く良かったなぁって…」
「あ、あぁ。ありがとうございます」

俺の方を見ずに遠くを見ながら嬉しそうな表情を浮かべている。
彼女のピアノのメロディーに引き寄せられてここまで来てしまったのだから。

それは紛れもない事実だ。

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