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その瞳にうつりたくて…

第4章 she is...

加藤ハルというのは俺が勝手に作った架空の人物だし、彼女とは2回程度しか話してないだけの関係だ。
あの音楽室に行かなくなったところで何の問題もないだろう。
俺は自分の正体を隠したいんだし、もうあの音楽室にさえ近づかなければいいだけの話だ。

そう、別に何も気にすることはないし罪悪感を感じる必要もない。
もう彼女に会わなければいいだけの話。
それだけだ。






その日の仕事帰り、俺は鬱々とした気分を晴らしたくて平井先生を飲みに誘った。
二日続けて既婚者の平井先生を誘うのは申し訳なかったが、この養成所で腹を割って話せるのは平井先生だけ。

「珍しいですね。加藤先生から飲みに行こうだなんて」
「えぇ、まぁ…」

…彼女にはもう会わない。
あの音楽室にも行かない。
君子危うきに近寄らず。

そう決めたはずなのに、俺の正体を隠そうとしてるのに何でこんなに鬱々とした気分になってるんだ?
このまま家に帰ってもこの気分は晴れそうにない。

平井先生とやって来たのは昨日と同じ焼き鳥屋。
煙の充満するカウンターに座り平井先生と共にビールで乾杯からのスタート。

「すいません。今日も付き合ってもらって…」
「いいのいいの。どうせ旦那は今日も遅いから」

へぇ。
相変わらずだが、平井先生の旦那さんは随分激務だな。


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