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その瞳にうつりたくて…

第4章 she is...

酒を飲んだところでこの気持ちが晴れてくれる訳でもない。
だからといって訳のわからない感情に振り回されたくない。
いてもいなくてもいい指導員だが、レッスンには出なくてならない。
これ以上生徒達に怪しく思われるのもよろしくない。
せめて、誰かに吐き出したいと思ったんだが…。

「で?飲みに誘ったって事は、何か相談でもあるんですか?」

メニューを見ながら平井先生が俺に問いかけた。
本当は平井先生にでもいいから全てを吐き出したかったが…。

「い、いえ、特には…」

平井先生を信用してない訳ではないが、同じスクールの平井先生に彼女の事を喋る訳にはいかない。
どこで俺の正体が漏洩するかわからない。
幸い平井先生は昨日の彼女についての会話は忘れてくれてるようだし、思い出しても幽霊としか思ってなさそうだし。

彼女の事は誰にも言っちゃいけない。

彼女にとって俺は初恋の人。
でもそれは、主役のレッドを演じていた俺だ。
仲間思いのレッドを演じていた若かりし頃の俺だ。
今の俺じゃない。

「あの、平井先生…」
「ん?何ですか?」
「平井先生の初恋っていつだったんですか?」
「え、えぇっ!?は、初恋ですかぁっ!?」

俺のその質問に平井先生は飲んでいたビールを吹き出しかけた。
無理もない。
いきなり飲みに誘った上にいきなりこんな質問をされたら誰だって驚く。

「初恋って、記憶に残ってますか?」

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