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その瞳にうつりたくて…

第4章 she is...

打ち付けるような雨。
かくいう俺も通勤中にびしょ濡れになったけどな。

あの子は…、水城綾は、こんな雨の日ですら学校に来てピアノを弾いてるんだろうか?
さすがにこんな大雨の日は家で大人しくしているだろう。
俺ですら雨の靄で視界が遮られてろくに歩けなかったのだから。
こんな日に外に出たら危ないだろうしな。

俺は…、彼女にはもう会わないと決めた。
なのに、何でこんなに彼女の心配をしてしまってるんだ?
これ以上彼女に関わったら俺の正体がいつかバレてしまう。
それを避けるために彼女にはもう近づかないと決めたはずなのに。


こうしてる今でも、彼女のことが気になってしまってる。
さっきからずっと腕時計ばかりを気にしてる。
休憩時間が近づく度に心臓が高鳴る。

これ以上彼女に近づいてはダメだ。
彼女をがっかりさせてしまう。
そして、俺自身も辛くなる。
でも…

彼女に会わないようにすれば、いつもの日常に戻れると思った。
いつものようにちゃんとレッスンにも身が入ると思った。
なのに、いつも以上に身が入らない。

会ってはダメだとわかってるのに
彼女が奏でたピアノの音色がまだ耳の奥に残ってる。
優しくて力強いあの旋律が忘れられない。
そして何より、彼女のあの笑顔がもう一度見たかった。

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