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その瞳にうつりたくて…

第1章 過去と今

昔を思い出して感傷に浸ってましたなんて口が裂けても言えねぇ。

「あー、もしかして、手のかかる生徒がいて頭を悩ませてたんですか?」

クスクスと笑いながら俺に近づく平井先生。

「いや、そんな事は…」
「まぁ、気にしない事ですよ。うちのコースにも手のかかる生徒の1人や2人いますから」

手がかかるどころか尊敬すらされてねぇかもな。

平井先生は35歳。
歳も近いこともあって俺ともよく喋ってくれている。
ちなみに、俺が出演した戦隊物は全く見たことがないという。
まぁ、戦隊物を見てると言えば大半が男の子だし女性が知らなくても無理はない。

「早く帰って彼女さんにでも癒してもらって下さい」
「あはは、残念ながら、彼女なんていないですよ」

芝居一筋で気づけばこの年齢。
恋愛に興味がなかったわけじゃないし、東京で彼女が出来たこともあったが、俺の頭の中にあるのはいつも芝居のことだけ。
そんな芝居馬鹿の俺が女性とまともに付き合えるはずもなく付き合っては別れを繰り返して来た。

お陰で結婚もしないまま、ずるずると40歳になってしまったのだ。

「平井先生こそ、早く帰らないと旦那さんが心配しますよ」
「心配しなくても、うちの旦那は残業続きで日付けが変わらないと帰って来ませ~ん」

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