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その瞳にうつりたくて…

第6章 友達

ったく、最近の若者は…。

「じゃあな!」
「はい」

俺は彼女に別れを告げ音楽室から出ていった。

「………。」

悪戯だったとは言え、彼女が恋人だったらと妄想してしまいそうになったが
いや、無いな。
あんな若い子とこんなおじさんが釣り合うはずがない。
まぁ、彼女は顔は可愛いし小柄だし、あんな子が恋人だったら楽しいだろうなとは思う。
俺には勿体ないぐらいだ。

でも、俺は彼女には相応しくない。
俺は彼女を騙してる。
彼女には言えない秘密を持ってる。
俺が彼女の初恋の人だという秘密を…。
その証拠に、彼女と恋人になって楽しく笑い合う姿が思い描けない。

彼女にはもっと、同じ年代ぐらいの彼氏がお似合いだ。
俺みたいに芝居だけにしがみついて生きてる芝居バカとでは彼女に苦労させるのは目に見えてるし、彼女があまりにも可哀想だ。

「よし、午後のレッスンだが…」

彼女にはそのうち素敵な恋人が見つかるだろう。
同年代の優しくてかっこいい彼氏が。

「今日は発声練習から。みんなちゃんと腹から声を出すように」

目の悪い彼女を支えてくれる男性がきっと現れる。
きっと…。




もし、そんな男性が現れたら、彼女はその男性と結ばれるのだろうか?
その男性と恋人になり、笑い合い、同じ時間を共有するのだろう。
共に笑い、泣き、怒り、全てを分かち合って。

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