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ダブル不倫

第6章 部長室

 十分ほどして、奈々葉は再び部長室の扉を叩いた。来客用の盆に載せたインスタントコーヒーの入った小瓶と一組のマグカップ、そして急須を携えて……。
 
「あの……」
 
 奈々葉はコーヒーの粉を入れたマグカップに湯を注いだ。
 
 コーヒーの香りが部屋に広がる。
 
「ホント、ホントにインスタントですよ? 熱いので気を付けてくださいね……」
 
 ズ、ズ、ズ……。
 
 里井がデスクの角に腰を掛け、黙ってコーヒーを啜る。
 
「ああ、これ、これ……」
 
 里井がコーヒーカップを覗き込む。
 
「宮崎のコーヒーさあ、俺、元気出るんだよ。ほら……お前も一口……」
 
 里井がまたコーヒーを啜って、奈々葉にカップを手渡す。古い映画で耳にした間接キスという言葉を思い出した。
 
 ――これが間接キス……?
 
 奈々葉もコーヒーを啜る。
 
 ――きゃあ!
 
「お前も、ちっとは元気になっただろ?」
 
「えっ……?」
 
「よかったじゃん。宮崎、お前この部屋に入ったとき、目は腫れてっし、顔色わりーしさ……」
 
 里井の顔が滲んで見えた。里井の大きな手のひらが奈々葉の頭を包み撫でる。
 
「部長……?」
 
「これじゃあ、セクハラだよな……。髪もバサバサにしちまったし……」
 
 奈々葉が顔を左右に振る。また、涙でコーヒーカップが滲んだ。
 
「部長、私……部長が……部長を……」
 
 奈々葉は里井の腕を引き、彼を抱き締めた。
 
 ――私が部長を元気にしてあげたい。

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