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ダブル不倫

第8章 一時間早く

 菜々葉が舌先を出すと、里井の舌先がそれを絡め取る。少し離れると、里井との間に銀の糸が伸びる。菜々葉は刺し身でも食べるかのように里井の舌を口に含む。
 
「……そうか?」
 
 カツカツという音が近づいてシステム営業部の前で止まる。
 
「近いな」
 
 里井が呟く。二人は少し距離を取った。
 
 ガチャっと事務所のドアが開く音のあと誰かが覗き込む。
 
「おはようございまーす。電話したら事務所から奈々葉と同じ着信音が聞こえて…………あっ……ジャマしちゃった?」
 
 美希の声だ。奈々葉たちはその場からさっと離れて、乱れたビジネススーツと髪を整える。
 
「なーんだ、奈々葉、早いのね?」
 
「……あ、ああ……う、うん……美希も……」
 
 菜々葉は慌てて笑顔を作った。
 
「まあ、たまにはね」
 
 子犬のような目が奈々葉を見た。その目が部長室の前に立つ里井の方に動く。

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