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ダブル不倫

第8章 一時間早く

 手洗いはシステム営業部とシステム情報部の事務所の間にある。距離にすると二十メートル弱で、そのすぐ隣には給湯室兼喫煙室があった。
 
 ――誰にも会いませんように……。
 
 シューと蒸気が噴き上がる音が給湯室から聞こえる。誰かの話し声がしている。
 
 奈々葉は美希から受け取ったタオルハンカチで口元を隠すように覆いながら手洗いに急いだ。
 
 手洗いの入り口を開いた時、いつものようにパウダーや香水の匂いがしなかった。手洗いには誰の姿もなかった。
 
 奈々葉は四つある個室の中で、一番奥の個室に飛び込んだ。

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