テキストサイズ

ダブル不倫

第8章 一時間早く

 菜々葉は、自分の口を拭い、クレンジングシートで唇の周りに付着した口紅を落とした。そして手短にパウダーを叩き、口紅を引く。仕上げにそこをティッシュペーパーで押さえると、ふっくらした唇がそこに転写される。
 
 ――ああ、里井部長と……。
 
 胸が高鳴った。
 
 呼吸が少し苦しかった。
 
 菜々葉はシャツの襟元と上着に鼻を近づけて汚れと臭いを確認する。
 
 遠くでコーヒーの香りがした。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ