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ダブル不倫

第10章 事件

 ♫♪♪〜〜♪♪♫

 奈々葉はスマホの着信音に呼ばれた。そのスクリーンを軽くタップする。
 
 待受のキャラクターの吹き出しの『新着メールがあります』と書かれた場所を軽くタップすると、『里井部長』の文字が浮かび上がった。
 
 奈々葉の脳裏にエルグランドで聞いた電子音が再生される。
 
 胸が高鳴る。
 
 信也を目の端で見る。スーツとシャツにネクタイを合わせて出掛ける支度をしている。いつもと同じ光景……。
 
 奈々葉はアドレス帳を呼び出して、『里井部長』の文字を『里井エリ』に打ち直した。信也を気にしながら。もちろん、奈々葉の友人にも里井エリという名前など存在しないが……。

 無題。里井です。まだ寝てるかな? 昨夜はお疲れさま。私は少し早く出社します。

 絵文字も改行もない文字だけのメールは荒々しい里井のイメージとはかけ離れていた。
 
 ――ふふふ……なんだかカワイイ……。
 奈々葉の頬が緩む。

 re:じゃあ私も少し早く出社しますね。

 奈々葉にとって、こんなに短いメールを送るのは初めてのことだった。
 

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