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私、普通の恋愛は無理なんです。

第3章 セフレ候補

「また、誰かがやらかしたのよ」
 
 私はため息をひとつついてから言った。
 
 声の主は統括部長の里井航だ。彼が怒鳴ることなど、いつものことだ。今、四十三歳の里井は下積みから這い上がったが超ワンマン。社長は高卒から四十歳で統括部長にまで上り詰めた彼に期待しているらしい。
 
 彼は私の身体だけの関係の候補――つまりセフレ候補だ。
 
 すぐに奈々葉が嵐のような扉の中に入った。バンという机を叩く音のあと、シンとした事務所からエアコンに冷やされた冷気が廊下に溢れ出す。恐いくらいの静けさのあと、冷気が再び溢れる。そそくさと奈々葉が給湯室に駆け込んみ、カチャカチャとコーヒーのセットをお盆に載せて事務所に入った。
 
「大野くん……」と奈々葉が息だけの声で囁いて、システム営業部の方を指差した。大野というのは私のデスクの向かいの新人男子社員だ。
 タバコを吸わない里井部長の大好物だ。奈々葉いいところを突いてる。ちょっと笑えてきた。

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