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インターセックス

第8章 雨上がり

 すでに今が何月何日何曜日なのかわからない。午後なのか午前なのかすらわからない。
空虚な時間だけが過ぎてゆく。もう流す涙など残っていない。心の底から枯れ果ててしまった。

 私の時間は、あの日から止まっている。むりやり唇を奪われたあの日から……

 私は、あの日、自分の正体を知られてしまった。
正に、悪夢の始まりだった。
私が誰にも知られたくなかった体の秘密。男女両方の性を持っている事など誰にも話せない。
私の体の一部に触れた川崎哲也は、私のことを『男』として認識したらしい。
その事は、またたく間にSNSで拡散された。

 家路に就いていた私のカバンの中のスマホは、メールの着信音が途切れなく鳴っていた。
友人からのメッセージは、「きもい」「近寄らないで」「女装趣味なのかい?」「嘘つき、裏切り者」そんな言葉ばかりが占めていた。
今まで仲良くしていた友達からも裏切りでもしたかのようなメッセージばかりだ。
しかも誰かが私の顔写真付きで「男なのに女子高生の制服着て学校来ている」とSNSにアップしている。
その拡散は、凄まじかった。
自分の名前でエゴサーチしてみると見るも無残な書き込みばかりで同情のかけらもない。
面識のない大勢のアカウントから誹謗中傷めいた書き込みが溢れている。
中には、私の生存自体を否定する書き込みも有った。
 家に着くなり部屋に鍵をしたまま閉じこもる私を心配した両親。
ドアの外から心配の様子で母が尋ねてくる。
「どうしたの夏音。何が有ったの。昨夜の事で何か有ったの?」と母が聞いてくる。
「ちがう、川崎哲也のバカが……」と言うのが精一杯で涙が邪魔して言葉が出ない。

 こうして、私が部屋に閉じこもるようになった。
翌日、学校へ連絡した母が事態を知ったようだ。
学校でも対応に苦慮しているとの事だった。
もう学校へは、登校できない。
人生が終わったような気持ちだった。
どうやって命を絶とうか。そんな事ばかり考えていた。

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