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インターセックス

第9章 転校

 母のアドバイスもあり一旦リセットすることにした。
学校生活も過去の友人関係も消し去りスマホの電話番号も変えた。
でも、どうしても消せないのは、ネットに拡散された私の顔写真だ。
弁護士の父は、法的手段を使いネット管理会社や投稿者にお願いをして削除を依頼してくれている。
しかし、削除しきれないネットの記事は、いつまでも残ってしまう。
インターネットの世界に刻まれた『デジタルタトゥー』として亡霊のようにつきまとう。

 学校も転校することになり受け入れ先の高校で編入テストと面談も済んだ。
しかし、学校からは、1つだけ条件が付けられた。
それは、私の正体を明かさないこと。それは、十分解っている。
知れたらどんな事になるか。もう2度とこのような思いは、繰り返したくない。
でも拡散されたデジタルタトゥーは、私の心に一抹の不安を与える。

 こうして、7月上旬に転校初日を迎えることになった。
母に連れられてその校門前に着いた。
『千葉県立香月高校』の学校名盤がレンガ作りの校門に掲げられている。
校庭の木々には、青葉が茂り花壇には、紫陽花が青く色づいている。
早朝の校門には、紺色ブレザーの制服を着た生徒たちが入って行く。
高まる不安で押しつぶされそうな心臓。校門前で足がすくんでしまった。

校門前で立ち止まる私を見て母が振り返る。
「大丈夫? 夏音」不安そうな顔で見つめている。
私は、大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせた。
「大丈夫」
もう、今更元へは、戻れない。いや戻りたくない。そんな気持ちで意を決したように校舎に向かう。
母は、不安そうに後を付いてくる。

 私のクラスは、2年3組だった。その教室前に担任の前田先生に連れられて廊下で待つように指示された。
静かな廊下は、だれもいない。
教室内で先生が出席を取っている。
その待ち時間は、数分の出来事なのだが私には、とても長い時間に感じられた。
これから待ち受ける自己紹介。
何を話したら良いんだろう。前の学校のことは、話せないし。そんな思いが頭を駆け巡る。

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