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インターセックス

第10章 無口な私

 とにかく学校に長居は、無用だ。できるだけ自分の気配を断って密かに下校する。
その日も、そうするはずだった。

 夏休みも近づく暑い日だった。早く自宅へ帰ろうと急ぎ足で校門を出た時だ。
後ろから小走りで吉川隆一が駆け寄り声を掛けてきた。
「ねえ、川谷さん。一緒に帰ろう」
私は、聞こえないふりをして、と言うか無視をして歩いていた。
横に並んで歩く吉川隆一。
「ねえ、川谷さん。どこから通っているの?」
あーめんどくさい。何でこいつ私に話しかけてくるんだろう?
私は、立ち止まり大きくため息をついた。
「え、どうしたの? ため息ついて」隆一は、足を止めて不思議そうな顔で私を見る。
「ねえ、お願いがあるんだけど」
「何? 何でも言って」
「私に付きまとわないで」
「つ、付きまとうって、ストーカーじゃねえし。春香の奴が川谷さんの面倒見ろって言うから」
「結構です!」
歩き出す私に付いてくる隆一。
「だってよ、春香がうるさいんだよ。『ちゃんと面倒見てるのか』って俺に聞いてくるんだよ」
「ああ、めんどくさい。勝手にすれば」
更に早足で歩く私にペースを合わせて歩く隆一。
「川谷さん、歩くの早いんだね」
おめーのせいだろ!
「生まれつきなので」
イラッとしてつい言ってしまったが嘘だ。いつもこんなに早く歩いたこと無い。
「川谷さん、家どこなの?」
無視。

「北千住駅まで行くんでしょ。僕も電車」
「あのさ、できれば、話しかけないで」
「どうしてさ? 僕の事嫌いなの?」
「そうじゃない。私、あんまり人が信用できないの」
「何かあったの?」
「そう言う事を話したくないのよ」
「ふーん。そうか、何か辛い事があったんだね」
無視。

「川谷さんは、部活どうするの?」
「しない」
「僕も部活やってないんだ」
「どうして?」
「バイト、帰ったら近くのコンビニでアルバイトさ。夜10時ころまで」
「ふーん。お金欲しいの?」
「そうじゃないよ。僕の家、母子家庭でさ、家計の足しになればって」
なるほど、こいつも結構背負うものがあったのか。
少し歩くペースを落とした。
「そうなの。偉いね。少し見直したわ」
「見直したって、僕どんな風に見えたの?」
「ちょっと頼りない奴」
「まあね、頼りない奴は、合ってる」
私は、不覚にも微笑んでしまった。

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