テキストサイズ

インターセックス

第12章 東尋坊と母の決意

 不幸は、連鎖するのだろうか。何だか話を聞いているうちに悲しくなってきた。


「夏音ちゃんがこんなに苦労してるなんて思わなんだで。ほんとに切ないな」

 間もなくお寺についた。
静かな森に立つお寺だった。
叔母に連れられて墓前に立つ。
お花と線香を備え手を合わせ祈りを捧げた。
「お母さん。やっと会えたね。私は、今、川谷さんの養子になって頑張って生きてるわ」そんな事を心のなかで母に語りかけた。

 帰りの車中、母への思いが募っていた。
あの朧気な記憶の中に残る海の景色。夢の中に見る海岸の景色が単なる想像なのか現実だったのか確かめたかった。
道すがら聞いてみた。
「ここから東尋坊って遠いんですか?」
「ああ、東尋坊は、すぐそこやで、ちょっこし見ていくかね」

 東尋坊の駐車場は、早朝ともあり人影もまばらだった。
駐車場に車を止めて商店街を歩いていく。

 早朝の静かな商店街を抜けると広場があり柵の向こうに青い海が広がっていた。
荒々しい柱状の岩が切り立つように立っている。
大地の断崖は勇壮というより壮絶で、日本海の波が打ち寄せる岩肌は、大迫力だった。
「あー思い出したわ。良く夢に出てくる風景は、これだわ」
「千鶴ちゃんもここが大好きでよく見に来てたから。きっと貴方を連れて来ていたはずよ」

 この壮大な風景を眺めて育った母を思い浮かべ朧気だった記憶の接点が繋がった。

 こうして、再びバイト生活に戻り慌ただしさの中、陰々たる思いに浸ること無く時が過ぎて行った。


 バイトも最終日を迎え別れの時がやってきた。
来たときと同じリュックを背負い旅館の玄関前に立つ。
叔母と椎名さんが見送りに来ていた。二人の顔を見ると込み上げてくるものがある。
「叔母さん、椎名さん。大変お世話になりました」
「夏音ちゃん、またバイトに来てね。おばさんいつでも待ってるから」
「川谷さん、勇気を持ってがんばって生きるのよ。困ったことがあったらいつでも相談のるからね」
「ありがとう……」涙が溢れ出す。本当に去りがたい。後ろ髪を引かれるってこう言う事なのだと実感した。
「必ずまた来ます」
そう言って旅館を後にした。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ