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森の中

第1章 1 ハイキングコース

   シダ植物の生い茂る苔むした細い獣道を三分ほど歩くとこじんまりとしたログハウスが現れた。

   (なんて森の中に似合う建物なのかしら……)

 傷の痛みを忘れ、三角屋根の小屋に見惚れていると男は扉を開け、中に入るよう促した。

  「傷の手当てをするから入りなさい」

   もたもたと靴を脱ぎ玄関に上がる。
   剥き出しの白木の板がとても自然で香りや湿度も心地よい八畳ほどの空間だ。
  「そこに座って」


   瑠実はなんだか不思議な気持ちでリラックスし始め、木の椅子に腰かけた。座った感じが柔らかい。部屋には無垢な一枚板のテーブルとイスのセットに簡単な台所があり、奥にはベッドもあるようだ。

   今は使われていないが薪ストーブまである。(生活ができるんだ)ぼんやり眺めているとガタガタと奥の棚から男は消毒薬とガーゼを持ってきた。

  「見せて」

   ハッとして瑠実は傷を男に向けると、かがんだ姿勢の彼ははさみで、傷の周りの布地を器用に切り始めた。太腿にかすかに触れる大きな節くれだった指先は冷たいがしっとりとしていて瑠実は身体の奥から何か呼び覚まされるような気になり軽く呆けてしまっていたが、消毒薬による痛覚で意識がはっきりした。

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