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Melty Life

第3章 春


 水和達が説明を始めるより先に、千里は状況を察した。飲み物を持つのを手伝うと言い出した彼の厚意を、二人して辞退しようとしたが、お節介なクラスメイトは引き下がらない。実際、全ての買い物を終えてみて、二人で運べない量ではなかった。それでも千里は自分が持つと言って聞かない。


 百伊と、もう少し二人きりでいたかったのに……。


 結局、水和と百伊は、千里に飲み物の入ったトートバッグを預けた。かたちばかり二人も持ったが、ほとんどを千里が教室まで運んだ。

 千里の背中を追うようにして教室に戻る途中、ふと、百伊が思い出した調子で話題を変えた。


「余計な心配かも知れないけど……」

「ん?」

「吹奏楽部の子に聞いた話で、あの……来須くんの恋仇の、……宮瀬さんって子」

「ああ、あかりちゃん?」

「あの子、妙な噂流されてるよ。根も葉もない、と思う。偶然聞いただけだし、実際大したことないかもだけど、落ち込んでたら可哀想だな。水和、話す機会あったらそれとなく話聞いてあげてみて」


 百伊は、それ以上話してくれなかった。何も知らない水和に教えるには刺激が強い、とだけ言って、話を濁して。

 問い詰めるにも、自動販売機から演劇部の活動教室までの距離は、短すぎた。

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