テキストサイズ

Melty Life

第3章 春



 中等部の校舎を通りかかると、まだ掃除当番の生徒達が動き回っていた。音楽室からは、既に合唱部のメロディが聞こえる。そしてグラウンドからは、威勢の良いかけ声が響いていた。

 私語も慎まれていた教室とは一変して、校内は賑やかだ。

 水和は自分より十センチは背丈の高い、凛とした横顔の親友と並んで歩く。ただ自動販売機へ向かうだけの道中にも、他愛のない話は尽きない。


「んっ、と。山下がオレンジジュースで、はのちゃんがリンゴジュース。二年は全員砂糖入りコーヒーで──…」

「林さんが緑茶、美沢さんがオレンジジュース。他の高一の子達は、炭酸何でも……」


 自動販売機に足を止めて、スマートフォンメモしていた一覧を読み上げながら、ふと、水和は不安になる。


 これだけ持って帰れるのかな。…………


「花崎さん?笹川さん?」


 背後から聞き親しんだ声がして、振り向くと、純朴な目をやや瞠いた千里がいた。細い右腕に重たげなファイルを抱えている。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ