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Melty Life

第3章 春



 一定の学力がなければ入学を許可されない淡海ヶ藤は、学費につけてまで志望者を選ぶ。社長の援助で今のところ通えているが、彼女の事務所にあてがわれる仕事だけでは、あの父親を養うだけで精一杯だ。あの男は定職にも就かないで、若かった時分の感覚のまま、歳を重ねた。
 ゆうやは父親似らしい。あの人でなしがかつて女から巻き上げていたくらいの金を、今度は息子である自分が集めるために、裕福で気位の高い女達を太客にしている。

 今背後にいる女も、その一人だ。


「ゆーうくん」


 きり…………


「おい」

「はいはい、お肌に爪は立てません。写っちゃったら大変だもんね」


 多少の傷は化粧で隠せば、モデル業に差し支えない。
 しかしこの女に限っては、肉まで抉り取るのではないかといったくらいに、加減を知らない。


 振り向いて、口づけてやる。深い、深い、爽やかな朝には似つかわしくない、空疎な欲望の絡みつくキス。不快だ。


 もし相手が水和であっても、こうした行為はゆうやに不快を与えるだろうか?

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