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Melty Life

第3章 春



「お前。俺にこんなものを寄越して、無駄遣いだとは思わないのか」


 ゆうやに絡みついてきた女の手は、数枚の紙幣を握っていた。


「モデルと寝れて、経済回せて。有意義だと思ってる」

「俺が好きでもないくせに」

「妬いてるの?ゆうくんの本命ちゃんがどんな子かは知らないけど、私は、お気に入りの子を支配したい人間なの。愛とか誓いとか、保証のなものに頼るなんて、怖い。綺麗なものを、自分の力で側に置いておきたいの」





 女と別れて、ゆうやは事務所に立ち寄った。

 ゴールデンウィーク中の撮影と、社長──…橋田まりやという、一個人としての彼女のプライベートに付き合う日時を決めるためだ。


 スマートフォンには、同居している中年男からメールが入っていた。

 仕事は終わったか、夜までに金を置きに帰れ。

* * * * * * *

 ゴールデンウィーク前半、両親と咲穂は泊まりがけの観光旅行へ出かけていった。残されたあかりは、一人、家中の掃除に打ち込んでいる。

 風呂場も水回りもフローリングも、使ってきた分、手入れを怠ってきた皺寄せが蓄積していた。前回あかりが磨いて以来、全員が放ったらかしにしていた証拠だ。


 連休中の家の中は、静かだ。

 昨夜も眞雪と電話したあと、水和とも何通かLINEを交わした。ゴールデンウィークの予定について、予想通り、水和は部活動だと言っていた。あかりは掃除だと返信すると、意外だという感想が返ってきた。

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