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Melty Life

第3章 春



 小野田という女の人物像は、喋り散らされた話によって、様々だ。時に醜悪で、時に妖麗。時に懇篤。

 名前を知る生徒はいない。小野田の容姿や職業も、事実の通りの噂は聞かない。

 ただ、両親の愛情を得られなかったあかりが他の女の保護の下、生きながらえて、その対価として玩具になっていた部分だけ、気味悪いほど当てはまっていた。


 温室育ちのクラスメイトらは、表立ってはあかりを迫害しないにしても、好奇をちらつかせた目は冷たい。内申書を意識してか、後ろ暗い生徒とは関わらないよう務める傾向が、進学校の特徴だ。ともかと玲まで、このところ何かと理由をつけて、他の生徒とつるんでいる。







「そんなこと、気にしてたんですか?」


 あかりの本心を耳にするなり、知香は飄々とした調子で、呆れ顔を表した。
 
 ゴールデンウィークが明けてすぐのことだ。

 いくら何でも昼休みを一緒に過ごす日があまりにも減っている、と、抗議してきた眞雪を連れて、今日は彼女も一緒だ。あかりは知香と会っていた。

 春休みの中庭は、他の生徒らの姿もある。紫外線さえ気にならなければ、この時期の風は心地が好い。

 久し振りに見た知香の顔に変わりないことに安堵して、あかりは、ふと、例の噂について思い溜めていた鬼胎を話したのだ。 

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