
Melty Life
第3章 春
眞雪はともかく、知香がこの件を知っていても眉一つ動かさなかったのは、存外だった。
自分がひどくいじめられていた頃、知香は何でもないことのように流していた。あかりが教師への相談を進めても、頑なに拒んだ。それと同じで、彼女の感覚からすれば、噂話もとるに足りない問題なのか。
「ちょっと、あれ」
ふと、新たに中庭に見えた少女達の団体が、あかり達に目を留めた。
「あれ、ウチのクラスの……えっと」
「おとなしくて、サッキー達に目をつけられてた……」
「昼休みいなくなるのは、そういうことか」
知香が、食べかけの弁当に箸を突き立てた。卵焼きを拾い上げて、すました顔で、黄色い物体を口を含む。
不躾な視線を送ってきたのは、知香のクラスの生徒達らしい。
「あの先輩?カッコイイ……あー、納得」
「同性とかありえないけど、確かにあの顔ならハマるかも」
「あんた達っ、何、人をじろじろ──…」
眞雪がベンチを立ったはずみで、彼女の弁当箱が傾いた。あかりは慌てて手を伸ばして、中身がこぼれ出るのを阻止する。
指に、ウィンナーのケチャップが付着した……。
「思い出した!侑目沢さんだよ、クラスメイトの名前忘れるなんて、失礼だよ」
「そうそう、侑目沢さん。目立たないのに名前が覚えにくいから、……」
「…………」
「知香ちゃん、……」
「良いんです。地味で暗いのは、事実ですし」
あかりが心配なのは、達観している知香ではない。初対面の下級生達に今にも飛びかかりそうな勢いの、眞雪の方だ。
