
Melty Life
第3章 春
* * * * * * *
職員室を出た咲穂を、ありさ達が待っていた。
「お帰り、咲穂。どうだった?」
「呼び出しぃ?よしよし、泣かなかったか?」
薄化粧して垢抜けた顔の友人達は、口々に咲穂をからかって、労う。
彼女らは咲穂に甘く都合の良い言葉だけをくれる。皆、都会的な見た目ではあるものの、咲穂ほどの完成された華やかさには及ばない。
二つに結って巻いた髪を人差し指に軽くいじって、咲穂は十分振りに顔を合わせた友人達を、いつも昼休み過ごすテラスへ連れて行った。
担任が咲穂を呼び出したのは、姉に関する疑惑の真偽を確かめるためだ。
あかりが、援助交際に近いことをしていたという噂。
現在、生徒らの好奇の矛先になっている。家族である咲穂なら、何か知っているだろう。ただの噂話なら、出どころの生徒にそれなりの処置を加えなければいけない。
自衛と建前に躍起な若い教師は、進学校の教師の鑑だ。風紀の乱れに苛立っていた。
咲穂は首を横に振った。
何も知りません。噂の出どころも、原因も、知りません。
実際、咲穂は何も知らない。ただ、一時期あかりが親しくしていた近隣住民の女と一緒にいるのを、見かけたことがあるくらいだ。
