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Melty Life

第3章 春


 咲穂には同性間の恋愛感情が理解出来なくても、姉はもらってくるプレゼントからしても、女同士にあり得ない類の代物だった。

 誕生日、クリスマス、バレンタインデー。

 おそらくネットで見かける実体験談は、あかりには日常的で当たり前なのだろう。


 使える、と、踏んだ。


 名前は知らない。ただ近所で度々見かける女があかりの肩を抱いた瞬間、彼女らが顔を寄せ合っていた瞬間を、写真に収めた。利用する機会を窺っている内に、町内に空き家が一つ出来た。女も見かけなくなって、半年ほど経った夏、写真は消した。


 そのことをふと思い出した先月、咲穂は何気なく友人に話した。


 …──ウチのお姉ちゃん、親が邪魔がってるから。折檻から逃げて、身体売ってたりしたら面白いのにな。



 咲穂の妄想を誰が面白がって、誰が言い触らしたかは特定出来ない。ただ、咲穂には都合の良い流れだった。


 流行りもメイクも研究して、友人達には気を配って、ちょっとした振る舞いにも、四六時中神経を使ってきた。そうして掴み取った人気、人望。咲穂が血の滲む努力をして得たものを、あかりは意識もしないで持っていた。
 咲穂は求めれば与えられる。優しい両親、欲しいもの、やりたいこと。努力で得たものが友人だけだというのも、虚しい。入学試験、あかりは表口から受けたのだろうが、咲穂の時は違和感があった。回答の半分も埋められなかった。それなのに合格した。真冬の深夜、顔の広い父親が、教育関係の何者かに電話をかけているのを、偶然耳にしてしまったことがある。 

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