テキストサイズ

Melty Life

第3章 春




「正味、先生は咲穂を呼び出したの筋違いだったよ。元凶、ウチらみたいなもんだし」

「実際、ヤッてたっていう先輩いたのは驚いたけど。お姉さんの評判下げて咲穂のイメージまで悪くならないかが、一番しんぱーい」

「そうそう。来須先輩とかがどう思うか。咲穂、早めに泣きついてくれば」

「違っ……だから、……」



 そこで来須が出てくるな。いなくなれ。あかり共々、消えろ。

 黒い感情が、咲穂の心臓を蠢く。現実には目障りなものが多すぎて、歳を重ねるほど息が出来なくなっていく。

 
「おい」


 咲穂達しかいなかったはずの一角に、低い、凄みのある声がした。

 隣にいた友人の一人が、ひっ、と、悲鳴こそ上げなかったにしても、引きつった青い顔を、ある一点に向けている。

 テラスに突き出た物置小屋。扉口に、大男が腰を下ろしていた。いや、体躯はそれほど大きくない。ただ、態度が、威圧感が、存在が、大きい。男は淡海ヶ藤の制服を着用していたが、とてもここの生徒らしからぬ、あまりにも似合わない風貌だ。


「お前ら、クラス、学年は」

「い、一年……。K組……です……」


 ありさは上級生に進み寄ると、毅然と彼の問いに答えた。つもりのようだが、その語尾は消えかかって、結局、敬語は敬語として機能しなかったも同然だ。


 少年は、何故か怒りを露わにしていた。

 その顔には見覚えがあった。どこかの雑誌で見かけたモデルに似ている。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ