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Melty Life

第5章 本音



 あかりが続きを待っていると、知香が意を決した顔つきで息を吸った。


「見てたんです。三週間前、あかり先輩とそこで待ち合わせていた昼休み」

「あの、眞雪が先に行ってた日?」


 それは水和が咲穂と会った日のことだ。物理室での用を済ませて、昼休み、あかりはこの近くまで知香を迎えに来た。知香と会って十数秒と経たない内に、校舎内が騒がしくなって、様子を見に行ったのだった。


「花崎先輩がお手洗いから出てくるところを見かけて、相変わらず可愛いなって、遠目に見ていたんです。そしたらあとから咲穂さんが出てきて。花崎先輩を、睨んでた、というか」

「それで……。詳しく、聞かせて」

「あんなことになるなんて思わなくて、私、本当にボーッて見ていただけなんです。何が起きたか分かりませんでした、咲穂さんが急に花崎先輩に距離を詰めたと思ったら、自分から足を滑らせたのも、何がしたいのか分かりませんでしたし……っ」


 咲穂の友人の一人が彼女の転落したところを見つけて、駆け寄っていった。それで知香は自分が気にかける必要もないだろうと判断して、校舎を出たという。
 今振り返れば、降りきるまで僅か数段という安全な位置から咲穂が自ら転落したのは、水和に濡れ衣を着せるためだった。しかし知香は、咲穂の友人達が徹底して彼女の被害をまくし立てているところに、口を出す勇気が出なかったという。もとより知香を足蹴にしているクラスメイトらの主張を横から割り込んでいって否定しても、彼女らは一人が嘘をついていると言って済ませただろうし、関われば口裏を合わせるよう強要される気さえして、知香は口を噤んでいた。

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