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Melty Life

第5章 本音



「赤外線で、送りたいものがあるんです。昨日、偶然、録音しました」

「え?」

「あの人達が、教室で花崎先輩のことを話していたので……。聞き取りにくいかも知れませんけど、盗聴、しました」

「知香ちゃん……」

「ずるくてごめんなさい。本当に、ごめんなさい。……花崎先輩がこのまま学校に来なくなったら、あかり先輩に、少しは見てもらえるかもって、私のこと。そんな想像まで、したことあるんです。最低ですよね。もう関わってもらわなくて構いませんから」

「気持ちは、嬉しいよ」


 唐突に呑気な調子でチャイムが鳴った。結局四限目の授業に出ないまま、午前が終わっていったのだ。

 知香からの赤外線通信を受け取っていると、眞雪からLINEの通知があった。


「お昼どうする?だって。眞雪、いつも平常運転だね。知香ちゃんどうする?」

「私のことなんて見捨てて下さい」

「感謝こそしても見捨てられないよ。ほんとありがと。来須先輩に話してきたら、すぐ行くから。先、行ってて」

「…………」



 ざわつき出した校内を、あかりは歩き進めていく。
 三年生の校舎を訪ねるのは、初めてだ。水和とは待ち合わせたこと自体が少ないし、昨年はどこであかりを知ったのか、試しに恋人ごっこだけでもしたいという上級生達にしょっちゅう会いに向かっていたのに、今年は一年生の校舎を訪ねてばかりいた。

 眞雪の待つ中庭へ向かいかけた知香は、さっき、もう一度あかりを呼び止めた。


 …──あかり先輩に幸せになって欲しくて、話したんです。好きな人には幸せになって欲しいから。花崎先輩を助けるためじゃなくて、私はあかり先輩に幸せになるために行動して欲しいです。


 知香の言葉を胸の内で反芻する。

 幸せとは、どんな状態を指すのだろう。自分自身に、おそらく知香が考えるようなイメージは思い描ける気がしないのに、どこへ向かえば良いのだろう。

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