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Melty Life

第2章 初デート




 夢にまで見た、いや、夢に見るのも畏れ多かった水和との二人きりの外出は、千里が想像していたより呆気なく実現した。

 教室の女子達の会話から察するに、最近は友人同士でも、二人で出かければイコール、デートと呼べるらしい。その理屈からすれば隼生の見解は筋違いではないにしろ、存外にハードルの低かった水和とのデートは、その手軽さが、却って千里を虚しがらせた。
 たった三週間前には千里と、カップルばかりの海中トンネルを肩を並べて歩いていた少女は今日、春休みに浮かれた客達でごった返す遊園地で、別の少女のエスコートやリップサービスを受けているのだ。千里の目の届かない場所で。



「俺、昔から辛いことがあったら、今日みたいにおじいちゃんの家に押しかけたね。おじいちゃん、俺が来るの知ってたみたいに、ケーキ用意してくれてるんだもん」

「辛いことなどなくても来て良いんだぞ。どれ、美味いか」

「うん。美味しい」


 爽やかなアプリコットジャムの刷かれたチーズケーキは、生地の密度がしっとりと高く、口に含むと静かに気泡をなくしながら溶けていく。隼生の家政婦の贔屓の店か、千里は物心ついた頃には既に、この店の味を覚えていた。


 塾でトップ10に入れなかった時、小学校のショートテストで一問ケアレスミスを犯した時、中学の球技大会で選手に選ばれなかった時──……。


 完璧主義な両親は、一人息子に完全無欠を求めていた。そんな環境下、うっかり人間特有の過失をした時、千里はこの書斎へ逃げ込んだのだ。

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