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Melty Life

第2章 初デート



「んあ?」

「そんな顔しないの。ハンサムが台なしよ」

「貴様の商品イメージが台なしってか」


 んもう、と、女は媚びた具合に唇を尖らせて、少年の頰から長い爪を並べた指を上げた。

 寝つかない子供をあやすような動きを繰り返していた愛撫は、ゆうやの苛立ちを煽っていた。

 頼みもしないのに膝を貸して、頼みもしないのに撫で回す。

 肉体と財力だけは優れた女は、自分のモデルを人形とでも勘違いしているのか。



 この世の真実も容赦なく暴き出してしまいそうに大きすぎる全身鏡と、使い手によっては人間のエゴが意図するまま、隠蔽の道具になりえる化粧品。よほどの自己愛者でもなければ着用して外へは出られないだろうという程度には派手な衣装が吊るしてある、洋服ラック。

 控え室はしんとしており、それでいて視覚に映り込んでくる情報は、ごちゃごちゃ五月蝿い。


 ゆうやは膝歩きで整髪スプレーを取りに行くと、全身鏡の前に胡座をかいた。

 寝癖を直す作業の合間、何度も女と、いや、社長と鏡越しに目が合う。特に感じるものがないのは、これが日常的な光景だからだ。


 にわかに扉の音がしたのが、イレギュラーなことである。


「はい」

「失礼します、希宮です」

「ああっ、どうぞ!上がって上がって」

「おいっ!」


 この女は、モデルの身嗜みの最中に、どういう神経で部外者の入室を許可しているのだ。…………

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